センターニュースびわ湖みらい第41号
ヒノキ高齢樹の成長量を測る
滋賀県の人工林は植栽してから50年以上経過した森林が多くなり、伐採して利用することができる森林が増えています。これまで木材価格の低迷が長く続いたこと、林業労働者の減少や高齢化等のため、人工林の伐採が控えられ、高齢の森林が増えてきました。しかし、近年では国産材の需要が増加してきており、県産材の生産量も増加してきています。
さて、樹木の成長状況は木材生産の基礎となる情報であり、森林所有者だけでなく森林・林業行政にとっても重要な情報です。これまで人工林は50年程度で伐採されることが多かったことから、これ以上の高齢林については成長状況がほとんど調査されてきませんでした。前述のとおり、今後は50年以上の森林の伐採が多くなると考えられることから、これらの成長を的確に把握する必要があります。そこで、センターでは過去の調査事例の少ないヒノキ高齢林の成長過程を調査しました。試料木のヒノキは、植栽地が多い県南部の7箇所において、それぞれ2~4本伐採して解析に用いました。
温帯地域で育つ樹木では、毎年、年輪が形成され、この年輪幅を測定することで、樹木全体の成長を知ることができます。これを樹幹解析と呼び、今回はこの方法で調査を進めました。
樹幹解析では、樹木を伐採することから始めます(写真1)。伐採後、地表面から高さ2~4m毎に厚さ約5cmの横断円盤を切り取ります。樹木1本分なら、10枚以上の円盤が取れます(写真2)。採取した円盤は、室内で十分乾燥した後、年輪の計測をしていきます(写真3)。
写真1 調査木の選定・伐採状況
写真2 採取した試料円盤
写真3 年輪幅の計測状況
まず、いろいろな高さで採取した試料円盤の年輪幅を1年毎に計測することで、円盤を採取した高さの肥大成長量を知ることができます。その後、いくつかの計算を経て、樹高成長量と材積成長量を推定することができます。
肥大成長量は、樹齢30年くらいまでは3mm/年程度でしたが、その後は小さくなって1.5~2mm/年程度になり、これが伐採されるまで続きました。このことから樹齢が若いときは、肥大成長が盛んだということがわかりました。また、調査地間での差異や植栽年による差異は認められませんでした。
樹高成長量は、100年程度の樹齢の範囲ではその速度が特に小さくなることはなく、いわゆる「頭打ち」のような現象は認められませんでした。樹齢が大きくなるにつれて、調査地間で樹高成長量に差がみられました。これには、気候や地形、土壌等の立地条件が影響しているものと推察されました。
材積成長量も、この樹齢の範囲ではその速度が遅くなる傾向は認められず、いずれの調査地でも増大し続けていることがわかりました。なお、結果の詳細は当センターの研究報告書19号(2024年3月発行※)に掲載されています。
ところで、樹幹解析では年輪幅を測定しますが、根気のいる作業で、樹齢が大きくなると作業時間も増えることになります。加えて、調査する私たちも「高齢化」が進んでおり、長時間こまかい作業を続けると目がショボショボしてきて、余計に時間を取られることになります。また、高齢木は材積が大きくなるため必然的に高価となります。このため、森林所有者が伐採される木や台風等の災害で倒れた木の一部を頂くことで試料を調達しており、試料数の確保は容易ではありません。
しかし、この調査を通じて、滋賀県のヒノキ林の成長過程を明らかにするための貴重なデータが得られたと考えられ、今後、森林所有者等の林業経営や地域森林計画等の森林・林業政策に活用されることが期待されます。
総合解析部門 小島永裕