センターニュースびわ湖みらい第40号

びわ湖視点論点

琵琶湖におけるアオコについて

 富栄養化した湖沼では藍藻類が大量発生して水面に浮上集積して緑色のペンキを流したような外観になることがあります。この現象は「アオコ」と呼ばれ、琵琶湖では1983年に初めて南湖において発生が確認されました。この年から、滋賀県ではアオコ監視パトロールを実施しています。アオコの判定は、国立環境研究所の「見た目アオコ指標」に準拠して行っています。アオコは港湾内や閉鎖的な水域での発生が多いのですが、時には広範囲で増加したものが沿岸域に集積してアオコを形成することもあります。また、カビ臭物質を産生する種があり、たびたび水道水の異臭味障害が発生しています。図1に琵琶湖におけるアオコの発生状況を示しました。富栄養化対策により湖水の栄養塩濃度は低下してきましたが、依然としてアオコの発生は確認されています。今回は、琵琶湖におけるアオコの発生状況とその構成種について紹介します。なお、種名は藍藻類の分類体系の変化によって変更されたものがありますので、旧来の種名の後に括弧書きで現在用いられている種名を記します。

図1 琵琶湖におけるアオコ発生日数および水域数の経年変化(滋賀県公表データより作成)

図1 琵琶湖におけるアオコ発生日数および水域数の経年変化(滋賀県公表データより作成)

写真1 琵琶湖におけるアオコ形成種の一部

写真1 琵琶湖におけるアオコ形成種の一部

 1983年9月、琵琶湖で初めてのアオコが南湖西岸に沿って約10kmの長さで発生しました。主要な構成種は(写真a)アナベナ・マクロスポラ(Dolichospermum hangangense)で、この種はカビ臭物質(ジェオスミン)による異臭味障害を起こしました。1985年9月には、南湖全体で(b)アナベナ・アフィニス(Dolichospermum affine)(カビ臭を発しない種)が増加し、大津市打出浜付近でアオコが発生しました。1987年には、(f)ミクロキスティス・エルギノーサ(Microcystis aeruginosa)が主体となり、草津市の矢橋帰帆島中間水路でも発生しました。記録的な渇水に見舞われた1994年には、北湖の港湾で初めてのアオコの発生(その後2006年まで発生)があり、この年、南湖でも赤野井湾を中心にアオコが頻発しました。
 アオコ構成種の変化を見ると、1991~95年にはカビ臭(2-メチルイソボルネオール)を強く発する(g)オシラトリア・テヌイス(Planktothricoides raciborskii)が目立って検出されました。1998年には糸状体の太さが70~80µmもある大型藍藻(h)オシラトリア・カワムラエ(Oscillatoria kawamurae)によるアオコの発生が初めて確認されました(2016年頃まで主要な形成種)。この種を主体とするアオコは一般的なアオコと異なり暗緑色を呈します。1999年10月には(i)アファニゾメノン・フロスアクアエ(Aphanizomenonflos-aquae)が突然大発生し、南湖沖合を含む広い範囲で増加しました。アオコを形成する主要なグループであるアナベナ属の変遷を見ると、1985~1995年頃には直鎖状の群体を形成するアナベナ・アフィニスが主体でしたが、1994~2005年には螺旋状の群体で、カビ臭(ジェオスミン)を強く発する(c)アナベナ・クラッサ(Dolichospermum crassum)が主要種となり、2002年には大津市際川周辺の湖岸で広範囲にわたり大量に発生して水道水の異臭味障害を引き起こしました。2009年以降には、(d)アナベナ・フロスアクアエ(Dolichospermum flos-aquae)が主要種となることが多くなり、2010年以降、アナベナ・アフィニスが再び主要種に返り咲きました。前種は2016年に、後種は2018年、2021年に南湖沖合を含む広い範囲で増加しました。2020年以降では、カビ臭(ジェオスミン)原因種(e)アナベナ・ミニスポラ(Dolichospermum minisporum)が新たに出現し、水道水に異臭味障害を引き起こしました。このほかにも、新たなアオコ形成種が次々と出現しており、気候変動によりアオコの発生頻度や発生規模の増大も懸念されることから引き続き注意深く監視を続けてまいります。

環境監視部門 藤原直樹