センターニュースびわ湖みらい第39号

びわ湖視点論点

琵琶湖の底層DOに係る環境基準点の設定と測定開始

 琵琶湖における底層溶存酸素濃度(底層DO)は、北湖深水層において2019年度から5年連続で、貧酸素状態とされる2mg/Lを下回る事態が発生しています。中でも2020年度は前年、前々年の全層循環未完了を受け、無酸素になる事態が発生し、その期間や水域が拡大しました。1979年以来の観測データによれば、北湖の今津沖中央(全水深89mの湖底直上1m)において、1980年代に2回貧酸素状態を観測し、2000年頃から再び貧酸素状態が観測されるようになりました。
 国は2016年3月に湖沼と海域における底層DOの環境基準を告示し、2021年12月に琵琶湖における類型が指定されました(図1)。この指定は水生生物の保全・再生を目的として、各湖沼や海域に生息する生物種の中から、底層を利用しそれぞれの水域を代表する生物を保全対象種として選定し、それらが生息する水域とその種の貧酸素耐性値に基づき行われるものです。琵琶湖では、生物3類型のイサザが生息する水域(目標値2mg/L)、生物2類型のビワマスが生息する水域(目標値3mg/L)などが設定されました。これを受け、県においては2023年3月に底層DOの環境基準点を設定し(図1の16地点)、監視を開始しました。

図1 琵琶湖における底層DOの類型と環境基準点(〇●◇)
(環境省告示資料に加筆)

 2022年度の測定結果では、生物2類型で1地点、生物3類型では、2地点とも環境基準値を下回りました。これまでの観測データも踏まえると、今後も環境基準値を下回ることが想定されます。底層DOが低下する要因は、富栄養化によって増加した植物プランクトンが沈降して湖底で分解・酸素消費することが考えられます。しかし、北湖の水質について、全りんは環境基準を達成済で、全窒素も2019年には環境基準を達成するなど、改善傾向が続いています。それにもかかわらず底層が貧酸素化するのは、暖冬等による気温上昇に伴い、湖水の混合が弱まり底層への酸素の供給が減少しているためとみられます。さらに、春の水温上昇が早まっていることから植物プランクトンの増殖期間が長くなり、それらが沈降して底層DOの消費量を増やしてしまうことも示唆されるなど、近年、底層DO低下には富栄養化でなく、気候変動が影響していることがわかりつつあります。
 このような状況も考慮し、国において、底層DO環境基準の目標である達成率と達成期間が設定されることになります。ただし、琵琶湖のように範囲が広く、複数の環境基準点を持つ水域の評価は、国の環境審議会の答申において、『保全対象種の個体群の維持に必要な水域割合等を求めることは極めて困難』とされています。また、達成率等の設定に当たっては、対策案も考慮することになりますが、琵琶湖で環境基準値を下回る可能性が高い水域は気候変動が主な要因であり、水深が深いことから、対策はとても難しいことが想定されます。
 また、底層が貧酸素状態に陥ると生物への影響が懸念されることから、当センターでは水中ロボットカメラを用いた画像解析により貧酸素状態の進行に応じて、アナンデールヨコエビやイサザの斃死個体が増加することを把握し、公表してきました。幸いこれまで、底層DOが貧酸素状態を脱すると底生生物も徐々に戻ってきています。しかし、底層DOが下がりやすくなっている現状においては、今後、さらに貧酸素化する頻度が増え、底生生物の状況、さらには、琵琶湖の生態系への影響についての情報も必要になることが想定されます。
 このように、今年度から始まった底層DOの環境基準点における測定から得られる結果は、気候変動の影響や琵琶湖の深水層の生態系とも関係していることが見えてきます。そこで、当センターでは底層DOを測定するだけでなく、対策の要否も含めた検討に役立つよう底質、底層の水質や生物の調査にも取り組んでいます。
 MLGsでは13のゴールはそれぞれ影響しあう関係にあります。ゴール7「びわ湖のためにも温室効果ガスを減らそう」とゴール1から3の琵琶湖や生物の指標の関係をつかむことで、関係者が連携してそれぞれがゴールを達成できるよう、調査や解析を進めていきたいと考えています。



環境監視部門 公共用水域係