センターニュースびわ湖みらい第38号

研究最前線

琵琶湖南湖生態系に影響を及ぼす湖底環境等に関する研究

 琵琶湖南湖では、1994年の大渇水以降、水草が著しく増加しました。水草の異常繁茂や琵琶湖の放流量減少に伴う湖流の停滞、湖底の泥化の進行により、多くの地点の湖底において一時的な貧酸素状態になりました。また、南湖東岸の一部では、砂利採取により深い湖底穴が多数形成されており、これらの深い湖底穴では、夏に貧酸素や無酸素状態になり、湖底環境が悪化することが危惧されます。南湖の湖底において酸素消費が進むのは、湖底泥に含まれる有機物の分解ですが、溶存酸素濃度(DO濃度)の低下具合は、直上の湖水の流れと合わせて考える必要があります。しかし、南湖湖底付近の水理観測例は極めて乏しい状況でした。そこで本研究では、湖底低酸素と湖水停滞区域との関係を明らかにすることを目的に、湖底直上の水温・DO濃度および流れ分布を、自動連続観測機器により時間・空間変化の詳しい構造を測定しました。

1 最新の手法での琵琶湖南湖調査

 本研究では、琵琶湖南湖の調査地点S0~S9(図1)のそれぞれ湖底直上0.5mにおいて測定精度±0.002℃の水温計、測定精度±1%のDO計(カナダ RBR社製)各1台を設置しました。また、琵琶湖博物館の調査船「うみんど」の側面に超音波流向流速計ADCP(アメリカTRDI社製、測定精度±5mm/s)を付けたことで、測流の難しい南湖で初めて、船を走らせながらの測流を可能とし、多層・広域での流れの3次元分布を測りました。

図1 琵琶湖南湖における調査地点S0~S9(右)および観測機器配置図(左)、
写真は、水面から見た本調査の係留系の様子である。(国土地理院の地理院地図に調査地点を追記して掲載)。

2 琵琶湖南湖の湖底低酸素化

 2018年~2020年の南湖湖底DOの分布調査によると、夏に水が停滞した時には、南湖の西側の水深が深い地点(S1~S2(図1))および湖底穴の近傍(S4、S8)において、2-3時間の貧酸素状態(DOが2mg/Lより低い状態)になり、湖底穴(S3、S6)では、無酸素状態になったことが分かりました。
 また、2020年7月~9月の山ノ下湾(S0)の水温・DOの時系列変化は特徴的でした(図2)。山ノ下湾は、比較的風の影響を受けにくく、波や船の通過の影響も少ないため、水温・DOの日変動をよく識別できます。昼間は水温の上昇に伴い、水草等の光合成により湖底近くまでDOが高くなり(図2の下図)、時にはDO飽和度は過飽和(飽和度100%を超えた状態)にもなります。しかし、夜間には、湖底有機物の酸素消費によりDOが低くなり、7月下旬からは一時的に貧酸素状態になることもありました。このDOの昼夜変動の幅は、大きい時には6mg/Lにも上りました。これらの観測結果は、物理環境が単純な場合(風・波・船の影響が少ない)のDOの昼夜変動です。そして、山ノ下湾には、水草が繫茂していることから、水草による湖底水の停滞および湖底泥に含まれる有機物の分解が湖底の低酸素化に影響を与えていると思われます。

図2 2020年7月~9月、気象庁大津観測場の風のベクトル(上)、
山ノ下湾S0(水深2.7m)における湖底直上0.5mの水温およびDO(下)。

3 琵琶湖南湖の流れの3次元分布

 1980年代に実施された従来の調査・研究によれば、南湖は浅く小さい湖であるため、北湖における地衡流の性質を持つ安定な「環流」のような時間規模の大きい流動は存在せず、流況は一般に複雑な変動状態を持つ弱流の場合が多いとされていましたが、その時代の流れの分布の調査では、流速計の性能・精度の制限により、南湖の流れ分布の特徴を十分に把握できていませんでした。それ以来、新たな測流手段がなかったので、南湖の流れの研究は進んでいませんでした。そこで、本研究では、超音波流向流速計(ADCP)を用いて測流して、典型的な例として、2019年8月1日、琵琶湖の放流量(洗堰放流量と琵琶湖疏水量)が多く北風がおよそ1.9m/sの場合の流れの水平分布パターンを見い出しました(図3)。南湖の西側に真っすぐの恒流が卓越し、南湖北半分の東側では、流れが弱い停滞区域があり(図3A、B)、また、北半分には、反時計回りの環流がありました(図3B)。また、琵琶湖の放流量が少ない場合は、南湖全体の流れが弱くなることから、琵琶湖の放流量が南湖全体の流れに大きく影響することが明らかになりました。また、水草の異常繁茂や琵琶湖の放流量減少に伴う湖流の停滞区域においては、湖底が低酸素になりやすいことを数値モデルでのシミュレーションで明らかにしました。

図3 超音波流向流速計(ADCP)で測った2019年8月1日の南湖の流れの水平分布
(水深:1.4m(A)、1.9m(B);琵琶湖の放流量:360m3/s)。

 

総合解析部門 焦 春萌