センターニュースびわ湖みらい第37号

びわ湖視点論点

ドローン画像を用いた生物調査と、デジタル画像が持つ生きものの情報の活用

 野生生物の調査・研究を行う上で最も基本的な情報は、いつ・どこに・どの種の生きものが・どれだけの数生息しているのかを知ることです。ところが、自然の中には膨大な種の、様々な大きさの生きものが生息しており、全ての生きものの種を判別・記録することは技術的・能力的に困難です。このため、おのおのの研究目的や対象生物に応じ、できる限り多くの情報を記録できる調査手法が考案されてきました。その中で近年急速に技術発展し適用例が広がっている手法の一つが、無人飛行機(UAV:Unmanned aerial vehicle 、通称ドローン)を用いた空撮画像による生物調査です。ドローンを用いた調査は、比較的広い範囲を短時間で調査可能であること、人の接近が難しい場所や生物を対象に調査できること、高解像度のデジタル画像データを取得できることなどの利点があります。当センターでも、2018年度にドローンを購入して生物調査に活用しており、現在は侵略的外来水生植物であるウスゲオオバナミズキンバイ(以下オオバナ)のモニタリングをしています。オオバナは人の立ち入りが難しい琵琶湖岸の水陸移行帯に生育し、木陰などでは繁茂しづらいため、ドローンによる空撮は他手法と比較して効率的・効果的な調査手法と考えられます。
 このような調査を続ける中で、ドローンを用いた生物調査には副次的な効果があることに気付きました。それは、高解像度のデジタル画像から過去の生物情報が復元できるという点です。ドローンを用いた湖岸植物の調査をしていたところ、オオバナの群落を発見しました。その時はオオバナがいつ侵入・繁茂していたのか分からなかったのですが、過去の調査やほかの方のドローン画像を確認したところ、オオバナ群落は私が調査を始める前の年から侵入・繁茂していたようです。
 ドローンの空撮画像に限らず、情報量の多いデジタル画像には目的外の生物情報についても記録されています。画像を保管し利用可能な状態にしておくことは、いつ・どこに・どの種の生きものが・どれだけの数いるかという基礎情報を得る上で非常に有用な手段です。現在、多くの人がスマートフォンなどのカメラ付携帯端末を所持しており、そこには膨大な生きものの画像が眠っていると考えられます。また、機械学習をはじめとしたAIによるデジタル画像処理技術は急速に発展をしています。眠っているデジタル画像と最新の画像処理技術を組み合わせることで、将来的には、多くの生きものの情報が自動で記録できるようになるかも知れません。生きもののデジタル画像を保存し、利用可能な形で残していくことが生きものの情報収集、ひいては生物多様性の保全のための貴重な基礎資料になっていくと考えています。
 当センターでは、使われていない生物の画像を収集し、生物多様性保全の基礎資料として活用するため、滋賀県生きものデータバンクを運用しています。眠っている貴重な生きものの画像を、活用させて頂けませんか。データバンクのホームページより、画像を共有頂けますと幸いです。

写真1 地上高度30mから撮影したドローン画像および黄四角部分の拡大図。
写真1 地上高度30mから撮影したドローン画像および黄四角部分の拡大図。
黄色の楕円で囲んだエリアに、侵入したオオバナが確認できる。

総合解析部門 酒井 陽一郎

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