センターニュースびわ湖みらい第35号

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CO₂ネットゼロ社会にむけた国内外の動き

 2015年のパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命前(1850~1900年の平均)に比べて1.5℃に抑えることは努力目標でしたが、2021年のCOP26(26回目の気候変動の政策を協議する国際会議)では、これを世界共通の目標として設定しました。
 2021年8月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から発表された第6次評価報告書第I作業部会報告書(自然科学的根拠)(以下、AR6WGI)*では、世界平均気温が2011~2020年にすでに1.09℃上昇したことが報告されました。1.5℃目標までに残された上昇分はあと0.41℃です。さらに、今後の世界平均気温の予測では、CO₂排出量が非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9)では今世紀中の気温上昇は1.5℃(1.2~2.0℃)に抑えられますが、排出が中程度のシナリオ(SSP2-4.5)では今世紀半ば(2041~2060年)に2.0℃(1.6~2.5℃)、非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)では2.4℃(1.9~3.0℃)になると示されています。現在においても、猛暑や大雨などの異常気象、また、これに伴う農作物への影響や災害、健康被害など、気候変動による影響が顕在化しています。今後の避けられない気候変動の悪影響には適応策にて対応するしかありませんが、その悪影響を長期的に最小化するためには、温室効果ガス排出量の削減が急務です。
 気温上昇は、温室効果ガスの累積排出量とほぼ比例関係にあります。つまり、少しでも排出削減が遅れるとそれだけ気温が上昇することを意味します。1.5℃目標達成(50%の確率)のために残された排出量(カーボンバジェット)から考えると、2050年前後にCO₂排出量を「ネットゼロ」(人為的排出量と森林などによる吸収のプラスマイナスで正味ゼロ)にしなければなりません。
 世界では、気候非常事態宣言を行い、緊急行動を呼びかける自治体や、CO₂排出量を削減するために事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%で賄うことを目指す(RE100)企業が増加するなど、気候変動に向けて大きく動いています。
 日本でも、2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ」を目指す宣言が行われて以降、2021年4月には2030年度の温室効果ガス削減目標を2013年度比で46%、さらに50%に向けて挑戦することが宣言されるなど、CO₂ネットゼロ社会実現に向けた取組が急速に進められています。2050年ゼロカーボンシティの表明を行った自治体は、479自治体(2021年10月29日時点)**で、表明自治体の総人口は約1.1億人に達します。
 滋賀県でも2020年1月の「しがCO₂ネットゼロムーブメント」キックオフ宣言に始まり、CO₂ネットゼロ社会実現に向けた取組を加速すべく、「低炭素」から名称を改め滋賀県CO₂ネットゼロ社会づくりに関する条例や計画の見直しを進めています。当センターでは、その計画検討において、定量的な分析による支援を行いましたので、その成果をご紹介いたします。

産業革命前からの世界平均気温の変化

図1 産業革命前からの世界平均気温の変化

(出典: IPCC, AR6WGI, Figure SPM.8、図中のSSP*-*は将来シナリオを表す記号)

参考資料:
* http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html
** https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html

総合解析部門 河瀬 玲奈