センターニュースびわ湖みらい第34号

びわ湖視点論点

琵琶湖のプランクトン異常発生の歴史

 過去40年間以上にわたる琵琶湖のプランクトン定期調査で、特定のプランクトンの異常発生に幾度も遭遇してきました。この異常発生も琵琶湖水質や生態系の過去・現在を評価するための一知見であり、今後の異常発生への備えや琵琶湖の水質評価のために、プランクトン異常発生の歴史1)をまとめました。

1 1977年~1993年の変化(富栄養化と対策)

 1977年5月に北湖でウログレナ(写真1)による淡水赤潮が初めて確認されました。当時は100µmメッシュのプランクトンネットを用いて調査をしており、細胞長が15µmのウログレナはネットから抜けてしまったため、これ以降、採水した水を直接プランクトン計数板に入れて確認する方法に改め、1978年5月近江舞子沖で最高値9,500群体/mlを記録しました。これをきっかけに富栄養化防止の機運が高まり、県は琵琶湖条例を制定しました。

 写真1 淡水赤潮の原因となったウログレナ

 しかし、1983年8月に南湖でアナベナによるアオコ現象が初めて確認され、1985年9月には南湖全域でアナベナの増加が認められました。
 1989年7月には、北湖の透明度が約2mと悪くなり、通常の植物プランクトンが殆ど観察されないのに植物プランクトンの量を示すクロロフィル-a量が多いという現象に遭遇しました。光を当てた時に植物の色素が発する蛍光を見られる落射蛍光顕微鏡を用いて湖水を観察した結果、超微細な1µm程度のピコ植物プランクトンと呼ばれるシネココックスが最高460万細胞/mlと非常に多く計数され、この水域では湖水が黒っぽいコーヒー色になり、粘性をもっていました。
 1980年以降は、琵琶湖条例の施行により栄養塩類が徐々に減少し、一方で、藍藻のアナベナなどの増加と共に寒天のような粘質鞘を持つ種類の割合が大きくなってきた時期と言えます。

 2 1994年~1998年の変化(異常気象)

 1994年の平成の大渇水では、琵琶湖の水位は6月から急激に下がり続け、9月には観測史上最低の-123cmを記録しました。その結果、北湖岸でも初めてアオコ現象が確認されるようになりました。この大渇水以降、湖岸では糸状の付着緑藻であるアオミドロ (写真2)やサヤミドロなどが大量繁茂したことにより、湖岸に打ち上げられて悪臭が発生し、湖岸の生物相への影響も懸念されました。また、南湖岸では、1998年からアオコが緑色から黒色に変化する不思議な現象が起こり、長さが数cmにも及ぶ巨大な糸状性藍藻のオシラトリアの大量発生が原因でした。この期間は異常気象によりプランクトン相も大きく変化した時期であると言えます。

写真2 湖岸で異常に繁茂したアオミドロ

3 1999年~近年の変化(外来種)

 1999年4~7月に北湖の透明度が10m以上と良くなる現象が認められました。この時、体長1.5~3.5mmにも達する大型ミジンコの増加が確認され、本種は過去に観察されたことがない、北米やヨーロッパの湖沼に分布するプリカリアミジンコであることがわかりました。
 また、10~12月には、これまで観察されたことのない北方由来の藍藻であるアファニゾメノンが大量発生しました。本種は浮上性が強く、1999年10月の大津市雄琴港内では130万群体/mlと極めて多い群体が計数され、その水域では群体の束が塊状になって大量に浮かんでいました。
 さらに、日本の湖沼では報告例のなかった大型(約175μm)の緑藻であるミクラステリアス(写真3)が、2011年11月に南湖中央で初めて確認され、2016年11月~2017年1月にかけて突然大量に発生し、琵琶湖全域に広がりました。
 この期間は、外来のプランクトン種の侵入が水質に影響を与えた時期と言えます。

写真3 外来由来種のミクラステリアス

まとめ

 滋賀県はプランクトンの長期モニタリングに多くの経験と実績を有し、水環境における諸課題において常に国内外をリードしてきました。これは琵琶湖に対する県民の皆さんの理解のおかげで、平常時からのモニタリングを実施できたためであり、異常発生が起こってから調査を始めても遅いと言わざるを得ません。いつ、どこで、どれくらい原因プランクトンが分布していたのかを継続して把握することで、将来的な発生予測や水質予測も可能になると考えています。

 

文献:1) 一瀬諭:琵琶湖のプランクトン異常発生の歴史,日本水処理生物学会誌別巻,40,54-59(2020)

 

環境監視部門 生物圏係