センターニュースびわ湖みらい第33号

びわ湖視点論点

森林の多面的機能の持続的な発揮に向けた研究

 滋賀県の森林は、琵琶湖の水源としての役割のほか、生物多様性の保全、土砂災害の防止、二酸化炭素の吸収など、多くの機能を持っています。これらの機能は、森林の「多面的機能」と呼ばれています。私たちは、森林で自然を体験したり、森林の景観を楽しんだりすること、あるいは森林を水源とする琵琶湖や河川などの水、森林で生産された木材の利用などを通して、森林の恩恵を受けており、これを健全な姿で未来に引き継いでいかなければなりません。
 そのために私たちにできることは何でしょうか。ヒントは「琵琶湖森林づくり基本計画」にあります。この計画の基本施策をみると、「環境に配慮した森林づくりの推進」として、針葉樹だけの人工林から針葉樹と広葉樹が混合した森林に誘導する取組などが求められており、森林所有者や森林組合といった林業従事者の役割が重要となっています。一方、林業従事者以外の県民一人ひとりの関わりも大事です。「県民の協働による森林づくりの推進」として、里山での森林ボランティア活動に加え、琵琶湖の水源地としての役割などの重要性を意識した森林づくりや、「森林資源の循環利用の促進」として、家を建てる際には県産材を活用して関わっていただくことなどがとても重要となっています。
 このように、森林が多面的機能を持続的に発揮していくためには、林業や木材業の関係者だけではなく、それ以外の多くの県民を含む、多様な主体が森林づくりに積極的に参加することが重要です。さらには、これらの多様な主体が独自に取り組むよりも、本県の森林が置かれている状況を踏まえながら、「どこで、どのように」取り組むのかについて共通認識を図ることが求められています。
 当センターでは、これまで林業の施業に関わる研究を中心に行ってきましたが、令和2年(2020年)から新たに、森林の多面的機能の持続的な発揮に向けた研究に着手しました。ここでは、前述の「どこで、どのように」を具体化していく森林のゾーニングに関する研究をご紹介します。
 森林を役割に応じて区分けすることをゾーニングといいます。この研究では、ゾーニングに必要な条件を分析し、人工林を資源(木材)として伐採した後に、再び資源を得るために苗を植える資源の循環利用を図る森林(=循環林)と、広葉樹を導入し環境重視の管理を行う森林(=環境林)、天然林の適正な配置について検討します。
 例えば、本県の森林の約43%はスギやヒノキの人工林ですが、その中には勾配が急である、あるいは林道からの距離が長いなどといった条件により、丸太の搬出が困難な区域が含まれます。そのような区域は、循環林としての管理を断念し、環境林に位置づけ、針広混交林へ誘導していくことが望ましいと考えられます。また、丸太の搬出といった木材生産の視点ではなく、例えば、野生動物の生息環境としての重要度が高いなど、生物多様性の保全の視点から環境林に位置づけるべき区域についても、同様の対応が求められます。
 本研究の分析結果を活用し、「循環林」「環境林」「天然林」の配置・役割を明示することにより、森林づくりに関する主体間の共通認識が図りやすくなると考えられます。県民一人ひとりが具体的にできることを考え、多様な主体による森林づくりの取り組みを活性化し、さらには多面的機能の持続的な発揮につながっていくよう、研究を進めていきます。

 

総合解析部門 中川 宏治