びわ湖からは、巻貝、二枚貝あわせて67種(巻貝38種、二枚貝22種:亜種を含む)の在来貝類が報告されています (西野, 2022, Sawada and Fuke, 2022, 2023, Sawada et al., 2024)。これは、これまで日本で報告された淡水産貝類の種数のほぼ半数にあたります (松岡, 2022)。このうち固有種は30種 (巻貝25種、二枚貝5種) です。固有貝類が在来の貝類全体の種数に対する割合 (固有率) は45%で、軟体動物は、1つの門としてはびわ湖の生物のなかで固有種の割合が最も高い分類群です (Nishino and Watanabe, 2000)。
貝類に限らず、各属のびわ湖固有種数は1~2種という分類群がほとんどです。唯一の例外は巻貝類のカワニナ属 (
Semisulcospira) で、在来22種の86%にあたる19種が固有種です (コラム「
びわ湖水系の固有カワニナ類の分類見直しについて」参照)。このうちサザナミカワニナ、ケショウカワニナ、シノビカワニナ、チクブカワニナ、コンペイトウカワニナ、トキタマカワニナ、アザイカワニナの7種は、2021~2024年に新種記載されました (Sawada and Nakano, 2021, Sawada and Fuke, 2022, 2023, Sawada et al., 2024)。
20年ほど前には、びわ湖の浅い湖底に潜ってみると、どこでもカワニナ類をみることができました。カワニナ類はまさにびわ湖を代表する生物であり、びわ湖は「カワニナの湖」といってもよいと思います。ただ最近、びわ湖全域でカワニナ類をはじめとする在来貝類の数が減ってきています。減少理由として、渇水時のびわ湖の水位操作による低水位のほか、工事等による土砂流入による生息環境の劣化が指摘されています (滋賀県生き物総合調査委員会, 2021)。
古びわ湖層からは、現生のカワニナ類としてはイボカワニナ (= (旧) ハベカワニナ:固有種) が、その他の現生貝類では、オオタニシ、ナガタニシ (固有種)、イケチョウガイ (固有種)、ササノハガイ、タテボシガイ、オバエボシガイ、オトコタテボシガイ (=セタイシガイ:固有種)、セタシジミ (固有種)、マシジミが約120~50万年前の堅田層から出土しています (松岡, 2022)。なお堅田層より古い古びわ湖層からは、現生貝類の化石は発見されていません。
外来種はスクミリンゴガイ、ヌノメカワニナ、ハブタエモノアラガイ、サカマキガイ、ヒロマキミズマイマイ、インドヒラマキガイ、カワヒバリガイの他、複数種の外来シジミ類がびわ湖に侵入していると考えられています。1965年にびわ湖で新種記載されたスジイリカワコザラガイは在来種と考えられていましたが、その後のDNA解析で北米原産の外来種(のシノニム =同種異名)であることが分かりました (Saito et al., 2018)。また1999年に守山市の水路でニュージーランド原産のコモチカワツボが発見されました。この種は約100年前に当時ニュージーランドを植民地にしていたイギリス本土で発見され、その後ヨーロッパ全域に広がりました。日本では1990年に初めて発見され、その後各地に分布域を広げており、既にびわ湖周辺の河川や水路で確認されています (西野, 1999)。少なくとも10種の外来貝類がびわ湖やその周辺水域から報告されています (Nishino, 2020)。
参考文献
- Saito, T., Do, V. T., Prozorova, L., Hirano, T., Fukuda, H. and Chiba, S. (2018) Endangered freshwater limpets in Japan are actually alien invasive species. Conserv. Genet., 19: 947-958.
- Sawada, N. and T. Nakano (2021) Revisiting a 135-year-old taxonomic account of the freshwater snail Semisulcospira multigranosa: designating its lectotype and describing a new species of the genus (Mollusca: Gastropoda: Semisulcospiridae). Zool. Stud., 60: 7. doi:10.6620/ZS.2021.60-07.
- Sawada, N. and Y. Fuke (2022) Systematic revision of the Japanese freshwater snail Semisulcospira decipiens (Mollusca: Semisulcospiridae): implications for diversification in the ancient Lake Biwa. Invert. System., 36: 1139–1177. https://doi.org/10.1071/IS22042
- Sawada, N. and Y. Fuke (2023) Diversification in ancient Lake Biwa: integrative taxonomy reveals overlooked species diversity of the Japanese freshwater snail genus Semisulcospira (Mollusca: Semisulcospiridae). Contrib. Zool., 92: 1–37.
- Sawada, N., Y. Fuke, O. Miura, H. Toyohara and T. Nakano (2024) Redescription of Semisulcospira reticulata (Mollusca, Semisulcospiridae) with description of a new species. Evolutionary Systematics, 8: 127-144.
- 滋賀県生き物総合調査委員会(編)(2021)滋賀県レッドデータブック2020年版.サンライズ出版.
- 西野麻知子(1999)新たに滋賀県に侵入した巻貝、コモチカワツボ. オウミア, 65: 4.
- 西野麻知子(2022)琵琶湖の生物多様性の由来と環境変動. pp. 26-40. In: 西野麻知子(編)「琵琶湖の生物はいつ、どこからきたのか?」. サンライズ出版.
- Nishino, M. and N. C. Watanabe (2000) Evolution and endemism in Lake Biwa, with special reference to its gastropod mollusc fauna. Advances in Ecological Research, 31: 151-180.
- Nishino, M. (2020)Mollusca of Lake Biwa and its long-term changes. pp. 149-154. In: Kawanabe, H., M. Nishino and M. Maehata (eds.) “Lake Biwa : Interactions between nature and people, 2nd ed.”. Springer, Cham.
- 松岡敬二(2022)琵琶湖貝類の成り立ちをさぐる化石たち. pp. 124-138. In: 西野麻知子(編)「琵琶湖の生物はいつ、どこからきたのか?」. サンライズ出版.
(1) 種群:同じ地域にすむ、単系統(=同一祖先由来)の近縁な固有種の総称(
びわ湖水系の固有種の項参照)
*執筆 西野麻知子
更新 2024年10月