びわ湖からは、種名が確定したものだけで310種以上の水生昆虫類(Kawanabe et al., 2012)が報告されています。これは、これまでびわ湖から報告されてきた底生動物種の約55%にあたります。昆虫類は、びわ湖の底生動物のなかで最も種数が豊富な生物群といってよいでしょう。とくに種数が多いのは双翅目(約160種)で、次いで毛翅目(トビケラ目)、蜉蝣目(カゲロウ目)の順です。びわ湖の水生昆虫の一部は、湖に流入する河川にもすんでおり、梅雨などの増水期にしか確認できない幼虫もいます。そのため、びわ湖の水生昆虫類には流入河川から湖に流下した昆虫も含まれていると考えられます。しかし、一生を湖内や湖岸付近で過ごす昆虫も多くいます。
こんなに多くの種がびわ湖にすんでいるのに、水生昆虫類の固有種はカゲロウ科のビワコシロカゲロウ、トビケラ科のビワコエグリトビケラの2種しか確認されていません (Nishino and Watanabe, 2000)。かつて Mori and Miura (1990) が固有種としたトンボ目のメガネサナエ、オオサカサナエ、トビケラ目のモリクサツミトビケラ、ビワセトトビケラについては、びわ湖以外からの分布記録があり、今は固有種とは考えられていません。また半翅目のカワムラナベブタムシもかつては固有種と考えられていましたが韓国からの分布記録があり固有種とはみなせなくなりました(河合・谷田、2005)。ただ分類学的研究の遅れているユスリカ科などから、近年記載された新種のいくつかが将来固有種になる可能性があります (Sasa and Kawai, 1987; Sasa and Nishino, 1995, 1996)。
古びわ湖層からは、ユスリカ類幼虫の頭部の一部が化石として出土していますが、現生のユスリカ類幼虫の分類学的研究がすすんでいないため、現生種との関係はわかっていません。
現在のところ、びわ湖の水生昆虫類のなかで外来種と考えられるのは、2006年に南湖で初めて確認され、その後湖全域に分布を拡大したコナユスリカ属の1種(
Corynoneura lacustris )です(金子ら、2010; 金子ら、2012)。
参考文献
- 河合禎次・谷田一三(編)(2005) 日本産水生昆虫 科・属・種への検索. 東海大学出版
- Kawanabe,H.,M.Nishino and M.Maehata (eds.)(2012) Lake Biwa : Interaction between nature and people. Springer, Dordrecht.
- Nishino, M. and N. C. Watanabe (2000) Evolution and endemism in Lake Biwa, with special reference to its gastropod mollusc fauna. Advances in Ecological Research, 31: 151-180.
- Sasa, M. and K. Kawai (1987) Studies on chironomid midges of Lake Biwa (Diptera, Chironomidae). Lake Biwa Study Monographs, 3: 119.
- Sasa, M. and M. Nishino (1995) Notes on the chironomid species collected in winter on the shore of Lake Biwa. Jpn. J. Sanit. Zool, 46 (1) : 1-8.
- Sasa, M. and M. Nishino (1996) Two new species of Chironomidae collected in winter on the shore of Lake Biwa, Honshu, Japan. Med. Entomol. Zool, 47 (4) : 317-322.
- 金子有子・東 善広・辰巳勝・佐々木寧・栗林実・石綿進一・井上栄壮・小林貞・石川可奈子・芳賀裕樹・西野麻知子(2010)湖岸生態系の保全・修復および管理に関する政策課題研究―平成19~20年度(2007~2008年度)中間報告―. 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究報告書, 5: 55-85.
- 金子有子・東 善広・佐々木寧・辰巳勝・橋本啓史・須川恒・石川可奈子・芳賀裕樹・井上栄壮・西野麻知子(2012)湖岸生態系の保全・修復および管理に関する政策課題研究―湖岸地形と生物からみた琵琶湖岸の現状と変遷および保全の方向性―. 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究報告書, 7: 113-149.
*執筆 西野麻知子