びわ湖には、昔からびわ湖にすみついている生物(在来種)のほかに、近年、国内外の水域から侵入した外来種もいます。外来種には、外国から入った生物(国外外来種)と、日本の他の地域から入った生物(国内外来種)の両方が含まれます。国外外来種は、記録されているだけで40種以上、国内外来種も扁形動物のコガタウズムシや、魚類のワカサギ、ヌマチチブなどが知られています。
びわ湖への外来種の移殖、放流が盛んに行われるようになったのは明治後期になってからです。食糧増産が国策であった時代が長く続き、水族振興の名のもとに、全国の淡水・汽水域からワカサギ、ベニマスなど、また米国や中国からもウシガエルやソウギョなど、わかっているだけで20数種の魚介類をびわ湖に移殖しました。これら放流された外来種の大部分は、コイやフナなど、もともとびわ湖にすむ魚を除けば、どれを放流しても敗退するか、細々と生きのびるのがやっとで、成功したといえるのはひとりテナガエビだったと考えられています。
ところが1960年代に入るとコカナダモが、1970年代にはブルーギル、オオクチバス(ブラックバス)と、びわ湖で次々に外来種が増えだしました。これら外来種が増えだした時期は、びわ湖を原水とする水道水に初めてカビ臭が発生するなど、びわ湖の生態系に異変が生じた時期とほぼ一致します。外来種にしろ、アオコや赤潮にしろ、単一種が急に増えるの、は湖の生態系が不安定になっていることを示していると考えられます。なおコカナダモは水槽で飼育されていたものが捨てられ、増えたと考えられています。ブルーギルは淡水真珠の増殖
(1)のため、西の湖で飼育されていた個体が逃げ出して増えたことがわかっています。オオクチバスは、釣り団体や釣りの愛好家などがひそかに放流したと考えられています。
その後1990年代に入ってワカサギやヌマチチブがごく普通にみられるようになり、最近では、ガーパイク、淡水サヨリなど、聞いたこともないような珍しい動物もびわ湖で見つかるようになっています。空前のペットブーム、アクアリウムブームで、珍しい動物が誰でも簡単に手に入るようになったことが背景にあります。飼育するのが面倒になったりして、これらのペットを捨てたり、逃げ出したものが湖で繁殖するようになったのでしょう。なお、コイ、フナなど水産上の主要12種以外の魚介類については現在、滋賀県漁業調整規則により放流が禁止されています。
逆にびわ湖から日本の各地に放流されている生物に、コアユがいます。友釣り用に全国の河川に放流されるびわ湖のアユ苗は、ごく最近まで全国シェアの70%を占めていました。びわ湖から全国に放流されたアユ苗に混じって、びわ湖で繁殖した外来種もまた全国に拡がっていく恐れもあります。
ところで、なぜ外来種が増えるのが問題となるのでしょうか?その理由はいくつかありますが、最も大きな理由は、(一部の)外来種が、もともとそこにすんでいた在来種を捕食したり、彼らのすみ場や餌を奪うことで、在来種の数を激減させたり、場合によっては絶滅させることがあり、在来の生態系そのものを大きく変えてしまうためです。
在来種は、長い時間をかけて日本の自然に適応、進化してきた貴重な自然の財産であり、自然を構成する重要な一員です。生物は、いったん絶滅したら、二度と生き返ることはできません。私たちの祖先と共に生き、はぐくまれてきた貴重な自然を、レジャーや一時的な楽しみのために失うことは倫理的にも大きな問題ではないでしょうか。
(1)淡水真珠は、びわ湖の固有種である二枚貝イケチョウガイを養殖してつくられています。イケチョウガイのグロキディウム幼生は魚類に寄生して成長するため、寄主となる魚がいないとイケチョウガイは存続することが出来ません。ブルーギルは、グロキディウム幼生の寄主としての役割を果たさせるため北米から日本に人為的に移殖され、西の湖で飼育されていました。しかし、びわ湖をはじめ西の湖でも、イケチョウガイは絶滅寸前です。このことは、外来種を人間の思うように扱おうと考えても、うまくいかないことを示しています。
*執筆 西野麻知子