世界で100ヘクタール以上の面積がある湖は845万以上あります (Reynolds, 2004)。その多くは過去1万年以降に形成され、今後1万年のあいだに消失してしまうであろう湖だと考えられています。それに対し、ごく僅か(約20)ではありますが、非常に古い歴史をもつ湖(おおむね10万年以上)があります。その多くは地殻変動によって生じた湖(=構造湖)で、沢山の固有種が生息することが知られています。これらの湖は古代湖とよばれ、びわ湖もそのひとつです。現生の湖で最も古いのは、約3000万年の歴史をもつといわれるロシアのバイカル湖、次いでアフリカの大地溝帯に位置するタンガニィカ湖(約500~1000万年前)です。
古代湖に共通してみられる特徴は、多くの固有種がすんでいるということです。なぜ古代湖には多くの固有種がすむのでしょうか? じつは、固有種が多くみられるのは、古代湖だけではありません。小笠原諸島やハワイ諸島のような海洋島にも、沢山の固有種がすんでいます。湖と島は、いっけん何の関係もなさそうに思えますが、湖を「陸という海に囲まれた島」と考えてみると、共通点があります。固有種が進化するひとつの条件は、島のように他の生物が簡単に入っていけないような隔離された場所であるということです。水中にすむ生物にとって、湖はまさに隔離された島といってよいでしょう。しかしすべての湖に固有種がいるのではなく、古代湖に固有種が多いのは、その歴史性と深い関係があります。
古代湖の固有種数は、バイカル湖が2000種余りと最も多く、ついでタンガニーカ湖(約800種)の順です。びわ湖で現在、固有種と考えられるのは66種 (西野ほか、2017) で、この2つの湖と比べると、かなり見劣りがします。それは、2つの湖に比べてびわ湖の歴史が浅いことと関係しています。古びわ湖の歴史は約400万年といわれますが、今のびわ湖が現在の位置に形成されたのはせいぜい100万年ほど前のことです。現生の固有種の化石で最も古いビワコオオナマズは400万年前の大山田湖の地層から出土しますが、それ以外の化石は100万年前の化石が大勢を占めます。
とはいえ、それでびわ湖の固有種の価値が低いというわけではありません。アジアの古代湖はバイカル湖、びわ湖、ビルマのインレイ湖などごく僅かしか知られていません。それぞれ寒帯、温帯、熱帯と全く異なった環境のなかで、それぞれの風土に根ざした独自の生物が進化してきました。どの湖の固有種にも湖の変遷とともに歩んだ独自の歴史があるのです。
参考文献
- Reynolds, C. S. (2004) Lakes, Limnology and Limnetic Ecology: Towards a new Synthesis. p.1-7. P. E. O' Sullivan and C. S. Reynolds (eds.) The Lakes Handbook. vol. 1. Limnology and Limnetic EcoIogy. Blackwell.
- 西野麻知子・秋山道雄・中島拓男(編)(2017) 琵琶湖岸からのメッセージー保全・再生のための視点ー. サンライズ出版
*執筆 西野麻知子