琵琶湖生物多様性画像データベース

琵琶湖に生息する鳥類

 琵琶湖およびその湖岸に生息する鳥類の種数は、何年前まで遡るかや、どこまでの範囲の陸域や上空を含めるかによって変わってきますが、179種という数値が得られています(Hashimoto et al. 2020)。
 琵琶湖は日本最大面積の湖であり、10万羽を超える水鳥の重要な越冬地となっています。琵琶湖で越冬期に最も個体数が多い種は、クイナ科のオオバン、カモ科のキンクロハジロとヒドリガモです。11種前後の個体数が、国際的に重要な湿地と判定されるラムサール条約の1%基準値を超えています(須川・橋本 2018)。オオバンとカモ類、カイツブリ類、そしてカワウは一緒に大きな群れを形成し、湖面に浮かんでいますが、種類によって食性や採食方法、さらには活動時間帯が異なり、利用環境や利用水深に違いが見られます(須川・橋本 2017)。大型の水鳥であるハクチョウ類やガン類も越冬のため琵琶湖に飛来しますが、湖内だけでなく、周辺の水田など陸域も利用しながら冬を越します。カモメの仲間も主に冬季に湖面上で見られます。数は少ないですが、ヒメウやアビ科のオオハムも越冬のため琵琶湖に飛来します。
 湖岸のヨシ群落も多くの鳥類の重要な生息環境となっています。滋賀県の県鳥であるカイツブリをはじめ、バン、カルガモ、オオヨシキリといった数種の鳥類が湖岸沿いや内湖のヨシ群落で繁殖しています。一部のオオバンや少数のカンムリカイツブリは繁殖期にも琵琶湖に残り、湖岸のヨシ群落や琵琶湖への流入河川で繁殖しています。なお、琵琶湖では時々夏にも少数のカモ類が観察されますが、留鳥のカルガモ以外は、若鳥や怪我などの理由で渡らずに残っている個体で、琵琶湖で繁殖しているのはカルガモと後述する野生化したアイガモだけです。ツバメ、スズメ、ムクドリは、都市・農村にも多く生息する鳥ですが、繁殖が終わった後の塒としてヨシ群落を集団で利用します。越冬期も、枯ヨシに潜むカイガラムシなどを食べる小鳥類の重要な採食地となっています。
 砂浜や礫河原もコアジサシやコチドリ、イカルチドリの営巣場所として重要な環境です。しかし、コアジサシは、近年は造成中地などの一時的にできる裸地を転々としながら集団繁殖をしていましたが、2009年を最後に現在は絶滅状態です。
 琵琶湖内にある4つの島も鳥類の重要な生息地です。琵琶湖の北端に浮かぶ竹生島は、かつては日本最大のカワウのコロニー(集団繁殖地)がありました(亀田ら 2022)。この鳥は漁業や森林に深刻な被害を与える鳥として、2009年から捕殺による個体数調節が行われかなり減少したものの内陸部の制御しにくいコロニーでの営巣増加が憂慮されています。竹生島にはサギ類のコロニーもあります。アオサギ、ゴイサギ、ダイサギ、チュウサギ、コサギが混じったコロニーを形成しています。北湖南東部の沖島にもアオサギがコロニーをつくったことがあります。竹生島と沖島の間に位置する多景島は、カルガモの繁殖地になっています。沖の白石はカワウの繁殖地になっていたことがあります。琵琶湖に浮かぶ島は、人や捕食者が簡単に上陸できないので、このように鳥類が繁殖するのに安全な場を提供しています。
 ミサゴ、オジロワシ、オオワシといった魚食性の3種の大型猛禽類は、主に湖北地方で観察されます。ミサゴは留鳥ですが、残りの2種は冬鳥です。その他の湖岸の猛禽類の代表は、チュウヒとハイイロチュウヒです。チュウヒは琵琶湖や内湖のヨシ群落で営巣することがありますが、近年は繁殖が途絶え、これら2種共に冬鳥としてヨシ群落周辺に生息しています。トビも琵琶湖周辺に多く生息し、湖岸沿いの樹木でも営巣が見られます。このように多種の猛禽類が生息しているということは、魚、鳥、その他の動物も豊富であることを示しています。
 このように琵琶湖は生物多様性や鳥類相が豊かですが、いくつかの種は生息地の劣化によって絶滅の危機にあります。2020年の滋賀県のレッドリストでは138種の鳥類がリストアップされており、そのうちの半数以上が琵琶湖に生息する種です。例えば県鳥でもあり、琵琶湖の古名である「におのうみ」の「にお」が古名であるカイツブリの個体数は、過去数十年間で激減しています。減少要因としては、生息地の劣化、環境の人為改変や外来生物による餌不足、人間のレジャー活動による繁殖行動や採食行動への妨害などが考えられています。特にヨシ群落や沈水植物の面積の減少といった湖岸環境の変化は、多くの鳥の生息地に影響を及ぼしています。これらの鳥類の保護のため、1971年に琵琶湖は国設の鳥獣保護区に指定されました。1993年には琵琶湖本湖がラムサール条約の登録湿地となり、2008年には内湖の西の湖も追加登録されました。
 琵琶湖では、鳥類の外来種の問題はそれほど起きていませんが、一見マガモと見分けのつかないアイガモの野生化個体が各地で繁殖しています。本来のマガモの繁殖地の南限は米原市の三島池で、県の天然記念物に指定されています。コブハクチョウやコクチョウは外来種で、全国では野生化して問題となっている地域もありますが、彦根城の堀で飼われている両種は、飛んで逃げないよう風切り羽を切り取って管理されています。

参考文献

  1. Hashimoto, H., Sugawa, H. and Kameda K. (2020) Characteristics of the Avifauna of Lake Biwa and Its Long-term Trends. In H. Kawanabe, M. Nishino and M. Maehata (eds.) "Lake Biwa: Interactions between Nature and People second Edition", p237-242 (pp932), Springer
  2. 亀田佳代子・前迫ゆり・牧野厚史・藤井弘章(2022)カワウが森を変える―森林をめぐる鳥と人の環境史. pp289, 京都大学学術出版会
  3. 須川 恒・橋本啓史(2017)水鳥の現状とその変遷-価値ある湖岸湿地保全のために (西野麻知子・秋山道雄・中島拓男(編)『琵琶湖岸からのメッセージ 保全・再生のための視点』, pp248, サンライズ出版), p175-193.
  4. 須川 恒・橋本啓史(2018)水鳥(琵琶湖ハンドブック改訂検討チーム会議(編)『琵琶湖ハンドブック 三訂版』, pp256, 滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生策課), p180-181.

*執筆 橋本啓史・須川 恒

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