オウミア  No.9

琵琶湖研究所ニュース

1984年5月

編集・発行/滋賀県琵琶湖研究所
〒520-0806 大津市打出浜1-10
TEL 077-526-4800

●59年度事業概要の紹介
特集・湖国の雪
しがの自然・お知らせ・ご案内
世界の湖6 ソンクラ湖(タイ)
研究サロン


[59年度事業概要の紹介]

3年目をむかえた当研究所の3部門の事業概要を紹介します

1.研究企画部門
 琵琶湖とその集水域の自然と社会に関する重要な課題をとりあげ、それを解決するために必要な研究プロジェクトを企画・推進します。58年度と同様の4本の研究課題のもとに次のような研究を外部の研究機関に委託、あるいは共同研究として行ないます。
〈1〉地域環境研究の方法
 ・自然および社会事象の分析手法
 ・コンピュータを利用した会話型視覚化表現手法の研究
 ・住民参加による環境診断の方法
 ・地域環境研究会
〈2〉琵琶湖集水域の現況と湖水への物質移動に関する総合研究
 ・琵琶湖流域の気候区分と各小気候区の気候特性の柚出
 ・河川による物質流送
 ・琵琶湖集水域地下水の研究
 ・滋賀県の植物と植生分布資料のデータベース化
 ・琵琶湖と滋賀県の経済活動
 ・滋賀県における産業立地動向
 ・水・土地利用と地域構造の変化
〈3〉湖岸システムの機能とその評価に関する総合研究
 ○砂浜・岩石湖岸の生物化学的機能
 ○ヨシ帯・水草帯の生物化学的機能
 ○湖畔住民の生活変遷と琵琶湖イメージに関する研究
〈4〉琵琶湖水の動態に関する実験的研究
 ・温度躍層以深における拡散現象の把握
 ・沈降性物質に伴なう物質輸送の把握
 ・琵琶湖底泥中における栄養塩類の輸送と生化学的変化
 これら4本の研究課題の内容を簡単に紹介しましょう。

〈1〉地域環境研究の方法
 本プロジェクトは琵琶湖とその集水域を対象とした地域環境研究の新たな方法を摸索するためにたてられています。環境研究が長期にわたって多くの人々に妥当なものであるためには、複雑に相互関連することがらを、できるかぎりもれなく考慮するような広い視野を持つ必要があります。そのためには、まず課題の一つとして、多様な利害関係の交錯状況を見据えるなかで、数量化されうる客観的情報処理とその提示の方法の開発が考えられます。具体的には、地域環境データベースを基本としたコンピュータ利用の方法の開発です。多量でかつ大量のデータを活用するにはコンピュータの利用が不可決であるからです。と同時に一方では、人々の生活の視点からみた場合「地域」の持つ意味は、その歴史文化的個性や、そこに住む人々の生活者としての主観的評価値判断を無視して論じることもできません。このように数量化することが難しいか、あるいは数量化することが無意味な情報を環境研究のなかに、いかにとりこんでいくかという点も、現在とり組むべき緊急の課題だと考えられます。
 このような視点から、地域環境研究プロジェクトでは、(1)地域環境に関する基礎情報の試験的データベース化、(2)種々のモデリングを含む分析手法の開発、(3)歴史・文化的視点を重視した社会調査の方法の開発、(4)環境問題への住民参加にむけた方法論的準備の4つのサブテーマについて研究を行っています。
 ここでとりあつかわれる広範な分野、およびそれと関違するであろう「方法」は潜在的には全体としての体系を持っていると思われます。けれどこれはあくまでも「潜在的」にであって、実際にはこれらの方法はそのままではむしろ方法の断片でしかありません。この断片的に見えるいくつかの方法をいかに統合的なものに発展させていくかが、今後に残された課題といえます。

〈2〉琵琶湖集水域の現況と湖水への物質移動に関する総合研究
 はるかかなたにかすむ比良山地などをいただいた琵琶湖のひろがりをみるにつけ、湖から平野をへて山地へといたる湖国の自然のまとまりを実感します。だからこそ、峠をこえて湖国にもどると、いっそう「帰ってきた」という感じがするのでしょう。これは、湖を中心とした盆地のもつ地理的特徴が人間の心にも影響しているのだと思います。
 分水嶺にはっした水をとおして、自然も人もお互いに結ばれて、湖とつながっています。かつての湖国では、清らかな山水が平野をうるおし、湖にそそいでいたことでしょう。だが、私たちが水とたわむれた湖岸や 川などの自然は、私たちの生活じたいも大きく変化するにつれて、人間の手が加わわった半自然になりつつあります。
 とくにこの四半世紀のあいだの琵琶湖集水域の人間社会・自然環境の著しい変化は、多量のリンや窒素などの栄養物質を湖に負荷し、赤潮・アオコの発生にみられるように、湖の環境に大きな影響を与えています。いまや、人間と自然との新しい共存関係をさぐる時代になりました。
 琵琶湖の汚濁の基本的要因は、集水域からの物質負荷です。そこで本研究では山地から湖岸までの広大な集水域を対象として、琵琶湖集水域の社会・自然条件の現況と物質負荷量との関係を調査し、富栄養化をひきおこす物質負荷の発生・輸送機構を明らかにすることをおもな目的としています。また、集水域の気候特性、おもな河州流域の植生や土地利用状況と河川水質との関連、地下水の流量と水質の推定などの自然科学的課題とともに、さらに経済活動や産業立地動向にも焦点をあて、その現況をモデルを用いて分析したり、実態調査によって水・土地利用の地域構造や生活様式の変化などの人文・社会学的課題の基本性格を明らかにします。
 昭和57年度にはじまった本研究は、本年度で琵琶湖集水域の現況と湖水への物質移動に関する基礎的な資料を収集,解析し、終了します。

〈3〉湖岸システムの機能とその評価に関する総合研究
 湖岸域は、その構造が複雑であるうえに、湖と人間活動の接点にあり、人為的影響を受けやすい特異的な場であるため、システム全体としての評価はほとんどなされていませんでした。本研究は、湖岸域のもつ機能や特異性等に関する自然科学的・社会科学的情報を集積し、今後の湖岸保全のための基礎資料を提供することを目的としています。
(1)砂浜・岩石湖岸の生物化学的機能これらの場における微生物の分布とその働きを調べる方法について研究してきました。本年度は、湖岸環境と生物分布・活性の関係を明らかにするための研究、および琵琶湖湖岸全域にわたる底生動物の分布調査を行います。
(2)ヨシ帯・水草帯の生物化学的機能水生植物の現存量、出現種、あるいは栄養塩除去効率を明らかにする研究を行ってきました。内湖の浄化機能に関する研究も行われ、窒素・リンの除去能が確認されました。これに関連した微生物、動物プランクトンの動きを明らかにする研究も行ってきました。本年度は、これらの研究成果の確認とそれらを発展させた継続的研究を行い、これらの場の実態の解明と、そこでの物質代謝における生物の役割等について評価を試みます。
(3)湖岸住民の生活変遷と琵琶湖イメージ
 おもに住民生活と水利用のあり方についてて調査研究を行ってきました。その結果、過去の湖岸地域では用水と排水をセットにしたシステムが働き、水の清浄を保ってきたが、近年の社会的変動の中で、特に水道化をひきがねとしてこのシステムがくずれ、排水が手当をされぬまま放置されるようになったことが明らかになりました。本年度は生活排水の処理をめぐる住民意識とその方向性を探ることに焦点をあてます。

〈4〉琵琶湖水の動態に関する実験的研究
本研究は琵琶湖、特にその深層水の水質変動を決定している機構を明らかにすることを目的としており、主に鉛直方向の輸送と生化学プロセスの関係に焦点をあてて実施しています。湖沼、特に琵琶湖のように季節的に水温躍層を形成する深い湖沼の水質変動は、鉛直方向の輸送という物理プロセスとの関係においてのみ正しく理解されるでしょう。従来の湖沼調査は、物理学の分野においては水平方向の流動、輸送の調査に重点がおかれていたし、化学の分野では、主に水質調査に限定され、物質の移動は十分に調査されておらず、粒子状物質の挙動や湖水と底泥の相互作用に関する調査は数少いのです。長期的視野にたって湖沼水質管理の方法を求めるためには、単に水質を分析するだけでなく、その水質変動において重要な機能を分担している“輸送”の間題、特に沈降性粒子や底泥が果している役割を明らかにし、水質変動のメカニズムを知ることが必要です。上記の 問題が遅れている最大の理由は、その測定分析手法が確立していないことにあり、また第2の理由は、この課題が従来の物理学・化学といった分野をまたがる“学際性”を持つことにあります。
 今年度は上記課題に対して、次の3つのサブテーマで実施します。
(1)温度躍層以深における拡散現象の把握
 流速計とサーミスタチェインを用いて、乱れによる輸送の指標である拡散係数の評価をすることを目的としています。
(2)沈降性物質に伴なう物質輸送の把握
 水中ステレオカメラと水中ビデオを用いて、温度躍層付近での沈降性物質の挙動を立体的、視覚的にとらえる手法の確立を目的としています。
(3)琵琶湖底泥中における栄養塩類の輸送と生化学的変化
 底泥中の有機物の分解にかかわる無機化活性と、栄養塩の回帰量を正確に推定する手法の確立を目的としています。

2.情報管理部門
 琵琶湖研究に関する情報センターとしての機能をめざして、基盤となる各種学術情報の収集・整理およびそれらの提供に努めます。
〈1〉図書資料の整備
 図書資料は、研究所に必要な基本的なものを年次計画で整備します。本年度は単行本約1500冊、雑誌約200種          〈2〉文献の収集整備
 逐次発表される琵琶湖研究に関する学術論文・雑誌記事等を研究所員、研究協力者等の協力を得てできる限り収集します。収集した文献は、必要なものが効率的に検索できるようにコンピュータを利用した検索システムに入力し管理します。
〈3〉データ管理の充実
 琵琶湖データベースの基礎となる各種データの収集・提供についての体制づくりを推進します。
3.広報・研究交流部門
〈1〉広報活動
 研究所の研究成果や琵琶湖に関する情報を提供するために、次の刊行物を出版します。( )は、発行予定月。
 ・琵琶湖研究所ニュース(5.9.12.3)
 ・琵琶湖研究所要覧(5)
 ・第3回琵琶湖研究シンポジウム記録(1)
 ・琵琶湖研究所所報(3)
 ・琵琶湖研究モノグラフ(9.2)また、視覚情報の提供として、プロジェクト研究の紹介や琵琶湖のスポットなどをパネルやビデオで展示します。
〈2〉研究交流活動
 県民、内外の研究者、行政担当者間の惰報交換に努め、相互の理解を深めるために、次の集会を開催します。( )は、開催予定月。
 ・琵琶湖セミナー(7.10.2)
 ・第2回「水と生活」講演会(8)
 ・第3回琵琶湖研究シンポジウム(12)


▲ PAGE TOP ▲