オウミア No.80
琵琶湖研究所ニュース
2004年6月
編集・発行/滋賀県琵琶湖研究所
〒520-0806 大津市打出浜1-10
TEL 077-526-4800
−面源負荷の湖内水質への影響ー
琵琶湖に流入する汚濁物質には、我々の家庭から出てくるもの(生活系負荷)、工場や事業所から出てくるもの(工場・事業場負荷)、水田や畑などの農地から出てくるもの(農業系面源負荷)、降雨時に市街地から洗い流されてくるもの(市街地系面源負荷)、森林から出てくるもの(森林系面源負荷)、雨や雪によって大気から湖に直接流入するもの(降水負荷)などがあります。これらの汚濁物質の琵琶湖への流入量(汚濁負荷量といいます)のうち、決まった場所(例えば排出口)から出てくる生活系負荷や工場・事業場負荷については、その量が把握されていますが、汚濁物質の発生場所が面的に広がり特定できない面源負荷(ノンポイント負荷)
については、その量がよくわかっていません。また、琵琶湖の水質に及ぼす影響についてもよくわかっていません。そこで、琵琶湖研究所では、ノンポイント負荷の定量的把握と湖内水質への影響について調査・研究を進めています。今回は赤野井湾での調査結果を中心に報告します。
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赤野井湾の位置 |

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図.赤野井湾における降水量と水質の関係 |
面源負荷は湖内水質にどのように影響するのか?
1.はじめに
農地などの面的発生源から降雨時や代かき・田植え時期に発生する面源負荷については、その量の把握および湖内水質への影響がよくわかっていません。そこで琵琶湖研究所では、プロジェクト研究「非定常流入負荷の湖内水質への影響予測評価」で、その影響を把握することを目標に研究を進めています。ここでは、琵琶湖南湖の赤野井湾での調査結果を中心にご紹介します。
2.調査方法
赤野井湾(表紙の図参照)の湾奥部に濁度とクロロフィルa濃度を自動で測定できる機械を設置し、20分間隔で測定しました。クロロフィルaは植物プランクトン濃度を表す指標です。設置水深は表層から約1mのところです。この観測結果と降水量の変化とを比較し、降雨時に面源から流入する物質(窒素、リン、懸濁物質など)の湾内水質への影響を調べました。
3.調査結果
2003年2月6日から2004年の2月末までの測定結果を表紙の右図に示しました。
濁度では、5月初旬に高いピークがみられましたが、これは代かき・田植えで発生した濁水が降雨によって湾に流れ込んだ影響です。また濁度は、降水量が多かった時に上昇する傾向がみられました。
一方、クロロフィルaでは、降水量との対応は明確にみられませんでした。この結果から、湾内の植物プランクトン増殖に対する降雨に伴う栄養塩供給の影響は小さいと推定されました。水の滞留時間が1週間程度で溶存態栄養塩が枯渇することの少ない条件にある赤野井湾では、降雨に伴う陸からの栄養塩供給よりも他の要因(湾内の水の滞留時間など)が、植物プランクトン増殖に対して影響が大きいと考えられました。
一方、北湖の表層における降雨時負荷の水質への影響を国土交通省・滋賀県の自動水質測定局データからみてみると、下図に示すとおり、やはり濁度には現れるときがありますが、クロロフィルaにははっきり現れていません。しかし、琵琶湖は水深が深く、河川から流入した物質は、時期によっては表層ではなく中層や下層に流れ込むため、表層の水質変化だけみていたのでは降雨負荷の影響は評価できないという問題があります。今後は、水質のシミュレーションモデルでの予測計算や多層での水質観測を通して、北湖での降雨時負荷の影響を把握していく予定にしています。
(専門研究員 大久保卓也)
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図.北湖の表層における降水量と水質の関係
(国土交通省・滋賀県の自動水質測定局データから作図。水深は表層0.5m) |
【研究トピックス】
新たに琵琶湖へ侵入したシナヌマエビ?(予報)
1.内湖および琵琶湖での発見
琵琶湖からはこれまでヌマエビ科2種(ヌマエビ、ミナミヌマエビ)、スジエビ科2種(スジエビ、テナガエビ) の淡水エビ類が報告されています。このうちミナミヌマエビNeocaridina
denticulata denticulata
は1915年にネルソン・アナンデール博士が初めて琵琶湖の底生動物調査を行ったときに採集されて以来、琵琶湖周辺での記録はありませんでした。
2001年4月に西野が内湖の生物相調査を始めたところ、びわ町川道の人造内湖および長浜市の細江内湖でミナミヌマエビと思われるエビが採集されました(西野ら、2002)。80数年ぶりの再発見か!と思っていたのですが、その後、ミナミヌマエビと思われるエビが日本各地で見つかっていることがわかりました。京都市の深泥が池では2000年前後に(竹門、私信)、びわ町早崎の琵琶湖岸でも2003年6月以降(国土交通省琵琶湖河川事務所による調査)、同10月にはオウミア79号で紹介した早崎干拓地の水路でも確認されました(湖北地域振興局田園整備課による調査)。
2.国境を越える淡水エビ類
2003年6月、兵庫県の夢前川水系でミナミヌマエビ(と思われるエビ)に外部共生したヒルミミズ(Holtodrilus truncatus)が発見されました(丹羽ら、2003)。このヒルミミズは中国からしか知られていないため、これらのエビは外来種の疑いが極めて濃厚になりました。丹羽の調査では、ミナミヌマエビの近縁種をはじめ、生きた淡水エビが中国や韓国から関西国際空港にほぼ毎週空輸されており、「ブツエビ」と呼ばれるミナミヌマエビ近縁種の輸入量は、年によっては20トン近くに上ると推定されます。釣り餌用として販売される他、「ミナミヌマエビ」の名でアクアリウムの観賞用動物や水槽の苔取り用としてインターネット販売も行われています。
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図.ミナミヌマエビ、シナヌマエビと近縁亜種の分布(上田,1970;Cai,1996より作図)。
Holtodrilus truncatus は河南省、広東省から報告されている(Gelder,1999)。 |
写真.琵琶湖産カワリヌマエビ属雄の額角 |
3.ミナミヌマエビの近縁亜種
カワリヌマエビ属Neocaridina
は、他のヌマエビ科に比べ抱卵数は少ないが、卵サイズが大きく、浮遊幼生(ゾエア)期をもちません。直達発生で、親とよく似た形でふ化し、すぐに底生生活に入ります。
本属のミナミヌマエビは日本固有亜種で、本来、静岡県(焼津)および琵琶湖から鹿児島県にかけて分布します。また近縁の亜種が朝鮮半島から2亜種、中国から5亜種報告されています(図)。これら亜種間の形態的な違いは僅かで、特に中国産のシナヌマエビNeocaridina
denticulata sinensis
とミナミヌマエビは極めてよく似ています。しかしシナヌマエビの額角には性的二型があり、雄の額角は雌よりやや短いとされています(Cai,1996)。一方、ミナミヌマエビでは雄の額角の幅がやや狭いことは指摘されていますが(上田,1970)、雌雄で額角長が異なるという報告はありません。もしそれが正しいなら、ミナミヌマエビとシナヌマエビは雄の額角長で区別が可能となります。
4.琵琶湖に侵入したシナヌマエビ?
今年5月にびわ町早崎の琵琶湖岸で採集されたカワリヌマエビ属雄の額角は雌より短く(写真)、シナヌマエビと類似しており、外来種と考えられます。ただ現在、日本には複数のミナミヌマエビの近縁亜種または近縁種が侵入していると考えられ、またそれに伴って交雑が生じている可能性もあります。これらカワリヌマエビ属の分類学的位置を決めるには、原記載に用いた標本も含め、ミナミヌマエビ、シナヌマエビ、および他の近縁亜種、近縁種について、形態や遺伝的な違いを今後詳細に比較検討する必要があります。
(総括研究員 西野麻知子、神戸市立六甲アイランド高等学校 丹羽信彰)
【研究トピックス】
試験研究機関連絡会議について
今回の研究トピックスでは、琵琶湖研究所の発足とほぼ同じ時期に設立された「試験研究機関連絡会議」についてご紹介します。
1. 会議の概要
この会議は、1983年春(当研究所開設の翌年) に、琵琶湖とその集水域に関する試験研究を行っていた県立の5
機関によって設立されました。正式名称は、『琵琶湖問題に関する試験研究機関連絡会議』です。
現在の構成機関は、琵琶湖博物館、森林センター*、農業総合センター(農業試験場*、茶業指導所、畜産技術振興センター)、水産試験場*、衛生環境センター*、および琵琶湖研究所*の6
機関・8 組織です(*印が発足当初の5 機関)。
会議は上述の構成機関順で、持ち回りにより年1 回開催されています。昨年度は2004年2月25日に25名が参加し、琵琶湖研究所で開催されました(写真参照)。
この会議は、構成機関が相互に連絡調整を行い、試験研究の円滑な推進を図ることを第一の目的としています。また、各機関の職員相互の交流を図ることを第二の目的としています。
2. 運営体制など
会議は、各機関から平均2 名(機関の長および幹事) が出席し開催されます。
各機関相互の情報交換は、琵琶湖の環境問題で共通性の高いテーマについて、それぞれの機関がどのような取り組みをしているかを紹介する形で進められています。最近のテーマとしては@水生生物、A水質変動、B赤潮・アオコ、C水質改善手法、D酸性雨、E森林、F化学物質、G汚濁負荷軽減、H人と環境などです。
例年、まず各機関の研究内容を一覧表に整理し概観します。その後、例えば農業試験場が開催当番であった2000年秋の会議では上述Gに関連して「耕地からの汚濁負荷軽減について」、2001年夏の水産試験場では@に関連して「漁場環境の現状」といったテーマを設定して情報交換を行います。2002年冬の衛生環境センターおよび2004年2
月の琵琶湖研究所ではFに関連して「琵琶湖と化学物質」をテーマとして、県立大学などの周辺の研究者も交えて情報交換、意見交換を行いました。
3. 今後への期待
このような意見交換を進めてきた結果、各機関相互での共通認識が生まれつつあります。また、職員(各幹事)
の交流を通じ、技術上の連携や研究成果の統合化も一部始まっています。各機関が連帯を強めていくことにより今後、琵琶湖問題に対する取り組みの機動性が向上し、また、多面的な視野から総合的な研究が進むことが期待されます。
(元主任研究員 横田 喜一郎)
所員の移動
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(管理部門着任) |
副 所 長 |
久保 弘 |
(琵琶湖環境部水政課) |
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主 任 |
丸田 考志 |
(甲賀地域振興局農業振興課) |
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(職員転出) |
副 所 長 |
麻生 考 |
(農業総合センター) |
| 主 査 |
坂口 明則 |
(文化財保護課) |
| 主任研究員 |
横田 喜一郎 |
(退職) |
| 主任研究員 |
木村 康二 |
(退職) |
| 研 究
員 |
山本 佳世子 |
(退職、名古屋産業大学) |