【研究こぼれ話】
雨の当たり年はずれ年 ― 暖候期の雨の降り方 ―
滋賀県庁前の「琵琶湖の水位」を表示している電光掲示板は滋賀県ならではのものですが、私は、この水位の日々、年々の変化を琵琶湖・滋賀県における「水循環」のしかたの違いをあらわす「バロメーター」として常日頃から興味深くみています。

写真: 滋賀県庁前にある「琵琶湖の水位」電光掲示板
「琵琶湖の水位」は、琵琶湖へ入ってくる水の量と、琵琶湖から出ていく水の量の関係によって決まります。入ってくる水の量が出ていく水の量より多いとき水位は上昇し、反対に出ていく量が多いとき水位は低下します。入ってくる水の量は、河川流入量+湖面降水量+地下水流入量であらわされ、いずれも滋賀県内の降水量に大きな影響をうけます。出ていく水量は、瀬田川南郷洗堰からの流出量+琵琶湖疏水の取水量+宇治発電所の取水量+湖面蒸発量+地下水流出量であらわされます。琵琶湖の水位は、明治38年(1905年)に南郷洗堰が設置されてからは、人為的に調節されています。
ところで、琵琶湖の水資源として重要な役割をはたす降水は、冬の降雨(降雪)と梅雨前線・秋雨前線・台風などに関連した暖かい季節(暖候期)の降雨とに分けられます。両者の形成過程がずいぶんと異なっていることはもちろんですが、降水が地上に到達した後のふるまいにも大きな違いがあります。滋賀県北部で積もった雪は、琵琶湖への水資源として雪解けの春先まで集水域で保存されます(オウミア30, 50号など参照)。いっぽう、暖候期の雨は、森林地帯などでいくらか保水されるものの、基本的には到達した場所からただちに流れ出ることになります。
暖候期の降雨の「地上に到達した降水がただちにその場から流れ出る」という性質は、洪水や土砂崩れなどの災害が生じやすい原因となっています。湖東地方などの流入河川では、過去に度重なる氾濫と洪水の記録が残されており、大雨が人々に甚大なる被害を与えてきたのです。反対に、梅雨前線・秋雨前線・台風などに関連した暖候期の降雨が、降るべき時期に降らなければ、渇水を引き起こすことになります。琵琶湖の渇水についても、最低水位がたとえ晩秋から初冬に観測されたとしても、直接的には暖候期の降雨が少ないことに起因して発生している場合がほとんどです。観測史上最低の−123cmの水位を記録した平成6年(1994年)の渇水は、記憶に新しいですが、これも梅雨期などの暖候期の降水量が極めて少なかったことが大きな原因でした。
さて、このような集中豪雨や渇水などの現象は、しばしば「異常気象」的に取り扱われることがありますが、はたしてそうなのでしょうか?
たとえば、鈴鹿山地周辺は暖候期の降水量が多い地域ですが、ここでの降水量変化の特徴は、長期的に降水量が増加しているのか、あるいは減少しているのかということよりも、むしろ顕著なことは、とにかく年変動が大きいことです。暖候期だけで2000mmを越える年が幾度となくあり、逆に、1000mmにも満たない年も幾度もあります。
じつは、集中豪雨や渇水などの一見「異常」に思える現象が、降水現象の本質的な性質を表しているともいえるのです。つまり、「時間的、空間的に不均質で、変動が大きい」ことが降水現象の重要な特性であり、異常気象を論じる場合には、十分にそのような性質を考慮しなければならないといえます。
以上のべたように、暖候期の降水は時空間的変動が大きく、なおかつ積雪にくらべて水資源の蓄積機能が乏しいという特徴があります。降った雨が直接的に地上から琵琶湖へ流出する際、栄養塩類などもいっしょに運ばれることになります。滋賀県の雨の降り方が年によってずいぶん違うことによって、陸上部から湖へ運び出される物の量なども年によって大きく変わるであろうと推測されます。また、降る雨の多少に関連した水位調節のしかたの違いが、湖内で起こる現象の年々の違いなどにも影響していることも考えられます。したがって、滋賀県の実際の降水量およびその変動を、より一層きめ細かく把握することが、琵琶湖・滋賀県の水循環とその環境に与える影響を理解するうえで重要であるといえるでしょう。 (研究員 東 善広)
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