【プロジェクト研究紹介】
底質の保全に関する基礎的研究の成果
▼はじめに
湖の富栄養化にともなって変化する湖底の底質に関心が高まっています。琵琶湖研究所では平成6年度から底質変化の実態解明をめざし、表題のプロジェクト研究を行いました。
▼泥の深さに年代を与える
南郷洗堰が完成した1905年以降、琵琶湖で泥のつもり方が変わったか?1960年代の経済成長期に負荷された化学物質はそのまま泥に蓄積したのか?泥に随伴した化学物質が、湖水に溶け出ることはあるか?泥がつもる速さを論じた研究は、底質保全をあまり意識しないまま行われてきたため、これらの疑問にはなかなか答えられませんでした。
ここ100年の間に、琵琶湖を取り巻く社会的要因が変化してきた履歴が底質にも刻まれているはずです。そこで過去の検証作業にとりくんでいる他分野の研究者(近畿大学、金沢大学)とともに年代目盛りつきの泥試料を獲得する体制作りを進めながら、泥の深さと堆積年代との関係を調べてきました。その一例として、北湖尾上沖の水深40m地点で、泥表面から6cm下の堆積年代を1949年と見積もりました(所報第13号参照)。
▼泥から溶出する化学物質
泥粒中の窒素やリンは、間隙水と触れ合って、アンモニアやリン酸などの栄養塩の形で溶け出てきます。間隙水と泥のすぐ上にある湖水は、同じ水同士ですから、間隙水に溶け出した栄養塩はさらに湖水に溶け出していきます。
ただし、いつでも溶け出したり、アンモニアとリン酸が同時に湖水に出たりするわけではありません。リン酸は間隙水中の溶存酸素(DO)濃度が高いと溶出しにくく、逆にDO濃度が低いと溶出しやすい性質があります。アンモニアの性質は複雑で、DOとの関係はリン酸のように単純ではありません。
泥に含まれる多種多様な化学物質が、どんなとき溶出するのかという問題には手が届きませんでしたが、いずれ栄養塩と同様、個別の化学物質の溶出とDOとの関係解明が基礎的研究としてクローズアップされてくるでしょう。
▼溶存酸素情報の重要性
どのような条件のときに栄養塩が泥から溶出するか、という問題に答えるためには、泥の間隙水中の溶存酸素(DO)濃度を測定する必要があります。
湖水中のDO値は、従来のDOセンサーで測ることができます。しかしそのセンサーを船上から泥中に沈めても、間隙水中の正しいDO値は得られません。また、室内に持ち帰った泥試料で、泥の深さ毎(例えば10mm刻み)にDOを測る機器はありませんでした。そこで新たにD0測定装置を開発しました(表紙参照)。
▼DOの実測
DOセンサーの先端は4μmと細いため、泥表面を乱さずに泥に差しこめます。これを上下駆動モーターで下方に0.1mm刻みで動かしながらDO値を測定します。一例として、南湖の水深1.5mの湖底の泥を、室内で測定した結果を示します。

泥表面より2.0mm上側の水ではDO濃度が5.60ppmありましたが、泥表面で4.46ppmとやや減少し、1.8mm以深では0ppmになりました。
ただしこの結果を、そのまま泥の現状と解釈してはいけないこともわかりました。温度や光の強さといった室内条件を変えて測定したところ、時々刻々とDO濃度分布が変化したからです。泥の表面ではDOと関係する生物化学反応が活発に起こっていることのあらわれでしょう。
▼応用的研究はこれから
ようやくDO値の測定事例が得られて嬉しいのですが、逆に困ったこともあります。これまでの栄養塩の情報や堆積年代の算定は泥の深さを10mm刻みに調べていましたが、今後は間隙水中のDO濃度分布に対応させて数mm毎に調べなければなりません。
泥のごく表面の数mmが底質変化にどのような影響を、どの程度与えているのか、量的把握に関する応用的な課題がまだ多く残されています。 (研究員 横田喜一郎)
|